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名古屋地方裁判所 昭和56年(ワ)2936号 判決 1985年9月13日

原告

千代田火災海上保険株式会社

被告

山田秀吉

ほか一名

主文

一  被告山田秀吉は原告に対し、金四三六九万九八八四円及びこれに対する昭和五五年八月一三日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告山田秀吉との間に生じた分は同被告の負担とし、原告と被告丸栄運送株式会社との間に生じた分については原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金四七〇〇万円及びこれに対する昭和五五年八月一三日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

左記の通り交通事故(以下「本件事故」という)が発生した。

事故発生日時 昭和五五年一月三一日午後八時三〇分頃

事故発生場所 名古屋市中村区黄金通七丁目三三番地先路上

事故の態様 同交差点(三又交差点)を南進した被告山田秀吉運転の大型貨物自動車(三河一一す七六三二号)が積載していた鋼管中一本(以下本件鋼管という)が同車荷台後方より転落し、対向車線北進中の訴外左右田益宏運転車両(名古屋五九な五六〇〇号)に落下した。

事故の結果 右事故により右訴外左右田(以下「亡左右田」という)は右側頭骨々折、脳挫滅の傷害により即死した。

2  本件事故の原因

(一) 前記(事故の態様)の通り、本件事故は、被告山田運転車両荷台から本件鋼管が落下して惹起したものであるが、その際、荷台に鋼管を固定するための鉄鎖が外れたものである。本件鋼管は四トンの重量であつて、鋼管一個に対し二~三本のワイヤーロープが通常使用されるが、本件事故当時、被告山田は、一本のワイヤーロープとこれに接合されたレバーホイスト(チエーンブロツク、通称ガツチヤ)で荷台に固定しようとした。

(二) 本件鋼管を荷台に積載する際、鋼管に傷がつかないようにするため、荷台右側の三枚のあおりの中、最後部のあおりが倒された状態であつた。

(三) 右レバーホイストのチエーン側のフツクは欠損していた。同フツクは荷台左側ボデイ又は荷台左側ワイヤーフツクにかけられていた。

(四) 右フツクの欠損は、チエーンとフツクのストツプピンの結合部の断裂によるものであり、ストツプピンの外ずれを防ぐ割ピンの破損又は欠除によるものである。レバーホイストその他の部分、ワイヤーロープには損傷がない。

(五) ストツプピンの結合部の断裂によつて、もともと不安定な形状の鋼管は、一気に安定を失ない、後部のあおりが倒されていたため、それによる支持もなく、被告山田運転車両の左折に伴い、鋼管が右側に転落した。

3  被告山田の責任

(一) 自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)三条による保有者責任

被告山田は本件車両の所有者であり、その運行により本件事故を発生せしめたものであり、同条による責任を免がれない。

(二) 不法行為(民法七〇九条)責任

被告山田は重量物である鋼製異形管を本件車両に積載し、運送しようとしたものであり、このような鋼管が運送中に落下することがあれば、大惨事となることを十分に予測しうるのであるから、鋼管が運送中に絶対に落下することがないよう積載及び走行に注意すべき義務がある。

そして、本件に即して具体的な注意義務を摘示するならば次の通りである。

(1) 本件異形鋼管は形状自体からみて、逆〔く〕の字形であり、その突出方向に転回しやすいものであるから、これを防ぐため「あて木」をすべきであり、走行中の積荷の変位に留意し、積荷の位置を決定すべきであつた。

(2) 荷台右側後部の「あおり」は支柱により支持され、積荷に対し一定の支持力を有するものであるから、あげておくべきであつた。鋼管の大きさ、形状から「あおり」が立てられない場合には、そのような積載は回避すべきであるし、これが仮に許容される場合には、他の手段によつて安全性が確保されていなければならない。

(3) 鋼管を荷台に固定し、運送中に鋼管の移動を防止するために使用するワイヤーやレバーホイストは、常時整備、点検されたものでなければならない。本件レバーホイストは製造後一〇年を経過していたのに、被告山田は昭和五三年一〇月に中古品として購入してから整備点検したことが全くない。

(4) ワイヤーやレバーホイストによる鋼管の固定は、不測の事態が皆無でない以上余裕の安全を見込み、複数本(個)用いるべきである。

(5) 走行中は鋼管の移動、転回を防止するため、鋼管の形状、重量、積載状況を常に念頭においた運転が必要である。本件事故現場は上りこう配であるうえ、急激なカーブとなつているのであるから、同カーブを左折する車両については車両右側が沈み、後部に遠心力が働くから、積荷の安定を欠くことになる。被告山田としては、徐行に近い速度で慎重に走行すべきであつた。

被告山田はこの種鋼管の運送経験がなく、二本のレバーホイストしか所持していなかつたこともあつて、右の注意義務を怠り、本件事故を発生せしめたものである。

因みに被告山田は、事故現場を制限速度内の時速四〇キロで走行していたとし、これにより走行上の落度はなかつたかのようにのべるが、鋼管の落下を防止するためには、より具体的な注意義務が問題となるのは当然であつて、制限速度内の走行がただちに過失を否定する理由になるものではない。

4  被告丸栄運送株式会社(被告丸栄運送)の責任

(一) 運行供用者としての責任

被告山田による本件鋼管の運送は、訴外和光機材株式会社との専属的運送契約に基く被告丸栄運送の業務として行なわれたものであり、被告丸栄運送にとつては、本件車両を「被告丸栄運送の車両」として、同訴外会社の注文通り配車をなしえたこと自体が業務上の利益であり、これを本件車両の運行による利益であると評価しうる。そして被告丸栄運送は、同被告会社の他の車両とともに鋼管を積載すべく右訴外会社に行くべき時間を指示し、また搬送先への到着時間の指示も行つているから、本件車両についての運行を支配していたといえる。

(二) 被告山田の使用者としての責任

被告丸栄運送は本件事故の前日に、訴外和光機材株式会社との本件鋼管にかかる運送契約を履行するための一〇トン車が一台不足するため、これを補充するため、臨時的ではあるが、被告山田を雇用した。被告両者の関係は臨時的であることを除けば、運送業界によくみられる車両持ち込みの運転手とその使用者の関係と同視しうる。なお雇用は継続的であることを要せず、臨時的であつても成立しうる。

そこで、前記の通り本件事故は被告山田の過失に起因するものであるから、使用者である被告丸栄運送はその使用者としての責任がある。

(三) 請負関係における注文者の過失

仮に被告丸栄運送が被告山田の使用者としての責任を負うものでないとされる場合、被告丸栄運送と被告山田の間には、本件鋼管の運送を仕事の対象とする請負契約が成立している。

被告丸栄運送と訴外和光機材株式会社との間には、同訴外会社の鋼管についての運送に関し、専属的な契約が存し、被告山田の本件鋼管の運送も被告丸栄運送の契約上の業務として行なわれたものである。

ところで本件鋼管は前記の通り重量物であつて、なおかつその形状の特殊性からみて、運送自体に極めて大きな危険性をはらむものである。そして、その危険を回避するために、鋼管の積載、車両の走行にあたつては格段の慎重さが要求され、現に被告丸栄運送の従業員が本件鋼管と同種の鋼管を運送する場合には、鋼管の固定にあたり複数のワイヤーが使用され(これにより一本のワイヤーに故障があつても、他のワイヤーによる固定が維持されるという余裕の安全性が見込まれている)るなどの配慮がなされている。

一方、被告山田は運送を業としているとはいえ、本件の如き鋼管を運送した経験が全くないばかりか、レバーホイスト(ガツチヤ)は持つているのみで、ほとんど使つたことがない(また昭和五三年六月以降は免許取消で運転もしていなかつた)のであつて、本件鋼管の積載、運送については予備知識のない素人といつてよい。

従つて、被告丸栄運送としては、本件鋼管の運送を被告山田に下請させる(注文する)にあたつては、次の措置をとるべきであつた。

(1) 運送の目的物をあらかじめ説明するとともに、同種の物件について運送の経験を有するか否かを確認すること。

(2) 経験を有しない場合には、少なくとも被告丸栄運送の従業員によつてとられている積載方法(積荷の方法、ワイヤーやレバーブロツクの選択、固定の方法など)を指示すべきである(被告丸栄運送では従前本件の如き事故の経験がなかつた)。被告丸栄運送は全く右の如き指示をなしておらず、本件鋼管のように特殊で危険な物件の運送を漫然と委ねたものであるから、その過失は重大である。

5  亡左右田の損害

(一) 亡左右田は、昭和一〇年六月一三日生の健康な男子であり、中部鋼鈑株式会社に勤務し、副参事(部長代理)の職にあり、昭和五四年分の年収は金六五五万四八八九円であり、母と子二人を有する家庭の主柱であつた。

(二) 逸失利益

亡左右田は右会社規定による定年(五六歳)までは少くとも毎年金六五五万四八八九円以上の収入を得、定年後は少くとも六七歳まで右収入の六〇%以上の収入を得べかりしものであつた。

またその家族構成等から見て、定年前においては三〇%の、定年後においては五〇%の生活費を控除すべきである。

(1) 定年前の逸失利益 金三九四一万四五四七円

(2) 定年後の逸失利益 金一二六九万三五四二円

(3) 退職金についての損害 金四二四万三一三二円

亡左右田は定年まで右会社に継続勤務し、退職時には金一八五七万七四〇〇円以上の退職金の支給を受けることができた。右会社の規定により支給される退職金は

(イ) 基準退職手当=退職手当算定基礎額×支給系数

(ロ) 定満加算金 四二万三一三二円

(ハ) 功労金 右(イ)、(ロ)合計の一二%

であるところ、亡左右田の場合、死亡当時の右算定基礎額である金一三万九三〇〇円は毎年金八四〇〇円の増加が想定されるので、定年時には金二四万〇一〇〇円となり、定年までの勤続年数三一年一か月に相当する支給系数は三一年に対し五八・三であり、一年に対して一・六(三二年と三一年の系数差)であり、(ロ)については金二五五万七〇〇〇円であるから、右により算定すれば

(イ) 24万0100×58.3=1399万7830(円)

24万0100×1.6×1/12=3万2014(円)

の合計金一四〇二万九八四四円

(ロ) 二五五万七〇〇〇円

(ハ) 一九九万〇五〇〇円((イ)(ロ)合計につき一〇〇円未満の端数切上げ額に対する一二%)

右(イ)(ロ)(ハ)の合計金一八五七万七四〇〇円(一〇〇円未満切上後の額)

ところで亡左右田の遺族には金七二六万二三八〇円の退職金が支払われているので定年時に支払われるべき前記金額との差額は金一一三一万五〇二〇円となる。これに対し四〇%の生活費を控除し、中間利息年五分を控除すると

となる。

(三) 慰藉料

亡左右田が一家の主柱であること、その家族構成を考慮すると、亡左右田の死亡による慰藉料は金一〇〇〇万円以上が相当である。

(四) 葬儀費用 金五〇万円

亡左右田死亡による葬儀費用として少くとも金五〇万円を要した。

(五) 権利保全費用 金一五万〇〇七九円

亡左右田の遺族は権利保全のため、調査交通費などの費用として金一五万〇〇七九円以上を支出した。

(六) 以上を合計すると亡左右田の本件事故による損害は合計金六七〇〇万一三〇〇円を下回らない。

6  保険金の支払い

(一) 原告と亡左右田間には左記の通り自動車保険契約が締結されていた。

(1) 保険期間 自昭和五四年三月二九日至同五五年三月二九日

(2) 保険種目 無保険車傷害保険

(3) 保険金額 金八〇〇〇万円

(二) そこで原告は亡左右田の前記損害から、自賠責保険より支払われた金二〇〇〇万一三〇〇円を控除した金四七〇〇万円を保険金として亡左右田の遺族(被保険者)に昭和五五年八月一二日支払い、同日被告らに対する保険金と同額の求償債権を取得した。

7  よつて原告は被告らに対し、各自金四七〇〇万円とこれに対する保険金支払の翌日である昭和五五年八月一三日から支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁(被告ら)

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項の事実について

被告山田が加害車両に鋼製異形管(但し重量三六六八キログラム)を二個積み、それぞれをワイヤーロープとレバーホイスト各一本で固定して輸送したこと、レバーホイストの断裂箇所がチエーンとフツクのストツプピン結合部であり、右断裂はストツプピンの外ずれを防ぐ割ピンが破損又は欠除していた可能性が大きいことは認める。

3  同第3項は争う。

被告山田には過失がない。

被告山田が本件レバーホイストの欠陥又は問題点につき事前に予見することは極めて困難な状況であつた。

本件事故は積載に使用したレバーホイストに製造上の欠陥が存在したため生じた。

本件は後部に積載していた鋼管が落下したものであるが、被告山田運転車両後部には一・五トン用レバーホイストが使用されており、これは九トンまでの荷重に堪えられる性能がある。従つて三六六八キログラムの鋼製異形管の荷重に充分堪えられる。

ちなみに前部に取りつけた七五〇キログラム用レバーホイストは破断していない。

ストツプピンの外ずれを防ぐ割りピンの足が折れたり、割りピンが抜けたりして用をなさなくなることは比較的少ない。

(被告丸栄運送)

(二)(1)につき、本件鋼管には、その先端に三角形状の補強部分があり、これが自動車床部にくい込み、荷ずれ、移動を防ぐので支持材は使用しないのが通常の例であり、あて木を使用しなかつた被告山田に過失はない。

同(2)につき、あおり(側板)はかかる重量鋼管に対しては体裁程度であり、万一、鋼管が本件事故のように転落するときは、これを支える耐力はない。

同(4)につき、本件の如き積荷につき、ワイヤーロープを何本どのように使用するかは鋼管の形状重量、体積等により様々であり、その選択は運転手に委ねられており、被告丸栄運送では本件と同種同様の鋼管を積載するにあたつてワイヤーロープ一本のみの使用でも、過去に一度の事故もなかつた。本件ワイヤーロープには有害なつぶれやキズが殆んど認められず、その切断荷重は六トン前後と認められ、荷台鉄製支柱に取付けられた掛金具には変形損傷はなく、レバーホイストにかかつた最大荷重は三・七五トン以下であつた。本件ワイヤーロープは三・七五トン以下の荷重には充分耐えられる。一・五トンレバーホイストの安全荷重は九トンであるから、前記三・七五トンの荷重は右レバーホイストの許容範囲内であり、右レバーホイスト自体に性能上の欠陥はない。

本件事故原因と推論される下フツクとチエーンの結合部であるストツプピンの外れを防ぐ割りピンの破損又は欠如についても「ストツプピンに力がかかつてしまえば、これが左右に移動することは殆んど考えられない。従つて割ピンの折損によるストツプピンの脱落ということもありえない」とするメーカー側の反対意見もあり、必ずしも断定されず、従つて本件の場合、被告山田が事前にレバーホイストの欠陥に気付き、予めこれを点検補修すべき注意義務を有しない(予見可能性がない)。

同(5)について、被告山田は本件事故当日午前七時すぎ、和光機材株式会社より港区油屋町の自宅へ向かう途中、一時間位の休憩をとつた際、積荷の点検をしたが、異常はなかつたこと、本件事故現場付近ではカーブに備えて、それまでの時速五〇キロメートルを制限速度の時速四〇キロメートルに減速しており、同被告は事故防止のため、最善の注意を払つている。

4  (被告丸栄運送)

請求原因第4項は争う。

(一) 本件事故前日、被告丸栄運送は、かねて専属運送契約関係にあつた和光機材株式会社より同社製鋼製異形管を運送するよう注文を受けたが、あいにく、一〇トン貨物自動車の自社手配ができなかつたため、右運送を同業者である被告山田に依頼した。被告丸栄運送は被告山田に対し過去に一度同様の運送依頼をしたことはあつたが、当時、同被告との間で継続的な運送契約関係はなかつた。

当時、被告丸栄運送は多忙なときに仕事を依頼する同業者が約一〇社あり、被告山田はその一者にすぎなかつた。

運賃は荷主から被告丸栄運送が受取つたそのままを被告山田に支払い、被告丸栄運送は差額を収得してない。

ガソリン代は被告山田負担である。

保険料、修理費も被告山田に一任してある。

従つて被告丸栄運送は被告山田運転車両につき運行利益、運行支配はない。

(二) また被告山田は被告丸栄運送の被用者ではない。

(三) 被告山田の運送方法について被告丸栄運送は、その明細を指示していないが、これはかかる運送方法の選択は運転手に委ねるという業界の慣行に従つたものである。

被告山田のレバーホイストの欠陥につき、被告丸栄運送がこれを予見して指図すべき義務はない。

5  同第5項の事実につき、被告山田は不知、被告丸栄運送は否認。

6  同第6項の事実につき

(被告山田)

保険金の支払は認めるが、被告山田に対する請求は争う。

(被告丸栄運送)

否認する。

三  被告らの抗弁

被告らは被告山田運転の自動車の運行に関し注意を怠つておらず、かつ右車両のハンドル、ブレーキ等に故障はなく、構造上の欠陥、機能障害はない。

四  抗弁に対する答弁

抗弁事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項の事実は当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第一号証の八、二六、三四、甲第一〇号証及び被告山田本人尋問の結果によれば、請求原因第2項(一)ないし(四)の事実が認められる。

但し同項(一)記載の本件鋼管一本の重量は約三六六八キログラムであつた。

二1  成立に争いのない乙第一号証の七、一一、一二、二〇、二七、三一及び被告山田本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。

被告山田は昭和四一年ころ大型二種免許を取得したが、昭和五二、三年ころスピード違反で免許停止中に飲酒、無免許運転をしたため、免許取消となり、本件事故当時、無免許であつた。

昭和五五年一月三一日、被告山田は愛知県小牧市の和光機材株式会社へ午後六時ころ着き、異形鋼管二本(水道用鋼製管、直径二メートル一〇センチ位、くの字型曲管)を、右和光機材がクレーンで被告山田運転の大型貨物自動車に積み、被告山田がそれを一本の鋼管につき一本のワイヤーロープでそれぞれ固定した。固定の仕方は車両の右側荷台についているワイヤーフツクにワイヤーロープを引つかけ、右ワイヤーロープをレバーホイスト(荷台左側ワイヤーフツクにかけられたもの)に引つかけ、右レバーホイストを操作して固定した。その際、鋼管の移動やゆれを防ぐため鋼管の下にアテを敷くこともしなかつた。

被告山田は自分でワイヤーロープ固定作業を行ない、誰も手伝わなかつた。

被告山田は本件鋼管のような大きな重い鋼管をワイヤーロープで固定する作業をしたのは初めてであり、これまで同作業を手伝つたこともなかつたし、ワイヤーロープによる固定方法につき講習を受けたこともない。

被告山田は右鋼管の重さを右和光機材職員に聞いておらず、その重量を測定しないまま、荷積固定して発車した。

本件転落鋼管の固定に用いたレバーホイストは、一・五トン用のもので、被告山田が昭和五三年ころ中古品として購入したもので同被告は購入後、本件使用に至るまで点検、整備をしていない。

2  前記1の各証拠及び成立に争いのない乙第一号証の九によれば次の事実が認められる。

被告山田は本件鋼管を積んで右和光機材を出発後、名古屋市西区の名古屋自動車学校先路上で疲れを感じたため、一時間位休けいし、その際、タイヤの点検をし(異常なし)、右側ボデイの方からワイヤーロープ前後二本引つ張つたが(異常を発見せず)、車体左側のレバーホイストの方は点検しなかつた。

被告山田は右休けい後、名岐バイパスに接する一時停止場所で一時停止後左折進行し、名古屋市西区堀越町交差点を青信号で右折進行し、同区康生通交差点を信号待ち後、右折進行し、同市中村区栄生三差路交差点を青信号で止まることなく左折進行し、同区内市道名古屋環状線を南進し、本件事故発生場所へ至つた。

3  前記認定事実、前掲各証拠及び成立に争いのない乙第一号証の五、六、二一、二三によれば請求原因第2項(五)の事実及び次の事実が認められる。

被告山田が黄金陸橋上へ時速四三・八キロメートル以上の速度で上り(上り勾配一〇〇分の二)、陸橋上の信号交差点を左折するため、同交差点手前でブレーキを踏み(時速約四三・八キロメートル)、ギヤダウンし(時速約三九・一キロメートル)同交差点を左折進行した時ワイヤーが外れ、荷物が落ちる音がし(その時の被告山田車の速度時速三四・六キロメートル)、鋼管が亡左右田運転車両に転落し、同車はそのまま進行し、進路前方のガードレールにぶつかり停止した。

三  被告山田は過失を否定し、本件事故は積載に使用したレバーホイストに製造上の欠陥が存在したために生じたものであり、被告山田が本件レバーホイストの欠陥につき事前に予見することは困難であつたと主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はない。

けだし、仮に本件レバーホイストが本件鋼管より重い荷重に堪えられる性能を有し、ストツプピンの外ずれを防ぐ割りピンの足が折れたり抜けたりすることが多発するものでないとしても、被告山田の如き運送業者が、本件鋼管のように大きく重量のある移動し易い鋼管を荷積、固定、運送するに際しては、運送中、鋼管が移動しないようアテ等を使用し、使用するレバーホイストは事前に十分整備点検し、鋼管一本につき二本以上のワイヤーロープ、レバーホイストを使用して固定すべき義務を免れないからである。

名古屋自動車学校付近路上での点検程度では十分な点検義務を尽したとは到底いえず、本件レバーホイストのように中古品で相当期間事前点検、整備のされていないものについては、使用走行中、そのストツプピンが折れたり抜けたりすることは予見不能とはいえない。被告山田は本件の如き異形鋼管運送の経験がないのに、その積載、固定方法につき右和光機材や被告丸栄運送に尋ねることもなく、漫然と前記認定方法で鋼管を固定して本件事故交差点を前記認定速度方法で運送運転したものである。

加害車両運転者・保有者である被告山田は、自賠法三条所定の損害賠償責任を免れない。

四1  成立に争いのない乙第一号証の七、二〇、被告山田本人尋問の結果及び被告丸栄運送代表者尋問の結果によれば次の事実が認められる。

被告山田は、山秀興業の屋号で、運転手を五人使い、大型貨物自動車五台を運転させており、豊川市の三河物産株式会社、小牧市の大成金属株式会社等の依頼を受けて金属くずをプレスしたものを運ぶ仕事をほぼ定期的に受けており、被告丸栄運送からの運送依頼は本件事故日が二回目であつた。一回目は昭和五四年一二月か同五五年一月ころで、被告丸栄運送の従業員兼下請の佐藤満及び被告山田の妻を介し右和光機材荷物の運送の依頼を受け、被告山田の下の運転手が今回より小さい物件を無事運送した。

被告丸栄運送は昭和四三年以来運送業を営み、本件事故当時、運転手一四人を雇い、貨物自動車一四台(四トン車一〇台、一〇トン車四台)を所有し、二〇ないし三〇社位の荷物を運び、右和光機材へは月に一〇〇台ないし一一〇台の車を入れて運送をしていた。

被告丸栄運送は、昭和五五年一月三〇日右和光機材から本件鋼管の運送の注文を受けたが、あいにく一〇トン貨物自動車の自社手配ができなかつたため、同被告代表者の妻を介し同業者である被告山田に対し「翌日四時ころ和光へ行つてくれ。そうすれば和光には被告丸栄運送の車が六、七台行つているからその運転手らと助け合つて積めば早く積める。三重県の三重用水まで運んでくれ」と頼んだ。その際、運送荷物の内容は伝えたが、積載方法、荷物固定用具、方法、運送方法についての具体的な指示はせず、運送経路(コース)についての指示もしていない。

本件事故当日、被告山田方の従業員(運転手)が一人休んだため、被告山田は自から和光機材の運送を担当した。(なお被告山田が自から本件運送を担当することを、被告丸栄運送に伝えたことを認めるに足る証拠はない。)

被告丸栄運送が被告山田に運送を頼むにつき、被告丸栄運送が被告山田のガソリン代を負担したことはなく、被告山田所有の車の保険料や修理費を負担したり、負担約束をしたことはない。

本件和光機材荷物運送代金は、被告丸栄運送が受け取るが、同被告は利ざやをとらず、そのまま渡す予定になつていた。

2  被告丸栄運送が、被告山田に本件鋼管の運送を依頼するにつき、積込、運送につき現場監督員をおいたり、鋼管の積載・固定・運送方法につき具体的指示をしたり、機材を貸与したことを認めるに足る証拠はない。

本件加害車両が被告丸栄運送事業所内に保管されていたり、被告山田が被告丸栄運送と専属的又は継続的請負関係にあつたり、その監督下に起居していたり、その従属的地位にあつたと認めるに足る証拠もない。

被告丸栄運送代表者において、被告山田本人が無免許であり、本件鋼管のような荷物の運送をした経験がないことを知つていたり、知りうべきであつたと認めるに足る証拠はない。

3  以上認定の事実によれば、被告丸栄運送が被告山田運転車両につき運行支配、運行利益を有していたと認めることはできず、被告丸栄運送に自賠法三条の運行供用者責任を認めることはできない。

また、前記認定事実によれば、被告丸栄運送が、被告山田の民法七一五条所定の使用者であると認めるに足りない。

従つて被告丸栄運送は被告山田に注文して本件鋼管運送をさせたものと認められるので、民法七一六条但書所定の注文指図につき過失があつたか否かにつき検討するに、前記認定のとおり、被告丸栄運送は本件鋼管の積載・固定方法・運送方法・運送径路について具体的な指示をしたり、監督をしたとは認めるに足りず、また前記認定事実の下ではその指示監督を欠いたことに過失があるとは認められないから被告丸栄運送につき民法七一六条但書の責任を肯認することはできない。

五1  証人新富正昭の証言及びこれにより真正に成立したと認められる甲第五ないし第七号証、成立に争いのない甲第四号証によれば、請求原因第5項(亡左右田の損害)(一)、(三)ないし(五)の事実が認められる。

2  右認定事実及び前記新富証言及びこれにより真正に成立したと認められる甲第五ないし第九号証及び弁論の全趣旨によれば請求原因第5項中、次の事実が認められる。

同項(二)の亡左右田の各逸失利益は次の計算により

(1)  定年前の逸失利益(定年まで約一一年四ケ月)

(2)  定年後の逸失利益(定年から六七歳まで)

定年後の収入は在職中の六割、生活費五〇パーセント控除

655万4889×0.6××(14.735-8.798)=655万4889×0.6×0.5×5.937=1167万4912(円)となり、

(3)  退職金についての損害

亡左右田が定年まで中部鋼鈑株式会社に継続勤務した場合、右会社の規定により支給される退職金は

(イ) 基準退職手当=退職手当算定基礎額×支給系数

(ロ) 定満加算金

(ハ) 功労金=右(イ)(ロ)合計の一二%

であるところ(なお退職手当の計算額に一〇〇円未満の端数が生じたときは一〇〇円に切上げる。)、亡左右田の場合、死亡当時の右算定基礎額である金一三万九三〇〇円は毎年八四〇〇円の増加が想定されるので定年時には金二四万〇一〇〇円となり、定年までの勤務年数三一年一か月に相当する支給系数は三一年に対し五八・三であり、一年に対して一・五(三二年と三一年の系数差)であるから、

(イ) 24万0100×58.3=1399万7830(円)

24万0100×1.5×1/12=3万0012(円)

の合計金一四〇二万七八四二円

(ロ) 定満加算金は右会社の退職手当に関する協定(甲第九号証)により

金二五五万七〇〇〇円

(ハ) につき右(イ)(ロ)合計につき一〇〇円未満の端数切上額に対する一二%を計算すると

金一九九万〇二〇〇円となる。

右(イ)(ロ)(ハ)を合計し、一〇〇円未満を切り上げると金一八五七万五一〇〇円となる。

これら退職金に対しては三〇%の生活費を控除するのが相当であるからこれを控除し、更に定年までの中間利息を控除すると

1857万5100×(1-0.3)×0.636=826万9634(円)

となる。

亡左右田の遺族には金七二六万二三八〇円の退職金が支払われていることが認められるのでこれを控除すると

826万9634-726万2380=100万7254(円)

となる。

(4)  従つて以上(1)ないし(3)認定の各金員を合計すると

4036万8939+1167万4912+100万7254=5305万1105(円)

となる。

3  前記1認定の請求原因第5項(三)ないし(五)の各損害金と前記2(4)認定の免失利益(退職金も含む)の合計は次の計算により

5305万1105+1000万+50万+15万0079=6370万1184(円)

となる。

六  成立に争いのない甲第一号証ないし第四号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因第6項(一)の事実及び原告が亡左右田の前記損害から自賠責保険より支払われた金二〇〇〇万一三〇〇円を控除した金四七〇〇万円を保険金として亡左右田の遺族(被保険者)に対し昭和五五年八月一二日に支払つたことが認められる。

七  以上によれば、被告山田は、前記六認定の損害賠償金六三七〇万一一八四円から自賠責保険支払金二〇〇〇万一三〇〇円を控除した金四三六九万九八八四円を原告に対し求償金として支払う義務があると認められるから、原告の本訴請求は被告山田に対し右金員及びこれに対する原告弁済の日の翌日である昭和五五年八月一三日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであり、原告の被告らに対するその余の請求は理由がないから、これを棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 神沢昌克)

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